美しい死にいさんはえいきゅうにずっとそのままなのでしょうね。
何者でもない、人間ですらない生き物を、焦点も合わせず見下ろす弟の、憎らしさといったらなかった。頭の中の俺は火の玉のような怒りそのままに立ち上がり、目の前の糞生意気な餓鬼の胸倉をむしり取るように掴み、その膨よかで清らかな頬を思いきり張ったのに、実際の俺ときたら、自分の下唇をぶつと醜く噛み切っただけだった。あまりの憤りに後頭部と足先から炎のような痺れがザアと走り、混ざり合った中心で真っ赤な塊になった。
殺したい、殺したい、殺してやりたい。こいつを、こいつを今すぐここで、俺の手で、俺のこの手で、殺してやりたい! 誰か殺してくれ! こいつの躰を殺してくれ! 身の内を壊してくれ! 誰か! 誰か、嗚呼誰かアッ………‼︎
は、は、と呼吸を乱す俺を捨て置きあいつは出ていった。何だよ畜生何なんだよあいつは! 苦労して苦労して、予科練でたっぷり可愛がられるよう仕向けてやったってのに、あいつら一体、何してた‼︎
どでかい背せなから漏れ出る侮蔑に、全身の血が激しく逆流してゆく。潰れた唇から漏れ出てゆく。腐った生命いのちの味がする。
大丈夫だ、大丈夫だ。俺が直接手を下さずとも、近い内あいつは遠くへ逝く。俺らを護って神になる。俺より遥かに優れ、秀でていたがために、お上に取り上げられたその命。
弟は美しい日の丸を背負い、俺は穢れた火の玉を囲う。畜生、畜生、なぜお前は穢れなかった。
ちくしょう、おれはおまえのように、うつくしくいきたかったーーーーー