ある日、庚子は父に呼ばれた。
丙江が駆け落ちしたことで時貞は危機感を持ったようで、二度とこのようなことが起こらないようにと姉妹全員がきつく言いつけられた。
おそらくそれだけでは不安なので、監視役として許嫁を決められるのであろうと庚子は踏んでいた。
前世では何人かの候補が決められており、その中から選ぶように言われた。
…表面上は。
時貞は裏鬼道との関係をより強固にしたがっており、その長である長田と婚約することは半ば決定しているのと同じようなものだった。
そうして前世の庚子は長田と婚約した。彼が姉と想い合っていることを知りながら。
庚子が記憶を駆使して立場を作ろうとしてきたのも全てこの時のためだ。
たとえ仲良くなった孝三や丙江を見捨てることになってでも、庚子は長田とだけは結婚したくなかった。
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