文三木『それは、きっと。』 それは、きっと。
新学期を迎えた忍術学園における特大イベントのひとつである予算会議が始まる、数日前の事だった。
かくかくしかじかで夏休みが消し飛んだ私たち四年生が、各々のやるべきことを終えて、ヒマを潰していた頃。夏の終わりとはいえ、茹るような暑さに汗を流す日々。
夏休みを減らされた二年生から順に学園へと戻り始めて、しばらくの間静かだった長屋が賑やかな声に包まれていく、そんな時のこと。
私はその瞬間、ぼうっとしていた。
四年生の長屋の傍で、四年い組の綾部喜八郎が我武者羅に穴を掘りまくる音。同じく四年い組の平滝夜叉丸が喧しい舞を繰り広げる音。それから、そんなふたりを見守るかのように縁側へ腰かけた、四年は組の斎藤タカ丸さんが縁側で茶を啜る音。そんな音が幾多にも重なり合って耳へ届くものだから、何だか悔しいけれど、存外心地よくって。諸事情で睡眠時間を削っていた私の眠気を誘うには十分だったのだ。
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