ただの、悪い夢。 夢を見ていた。暗闇の中で、自分は何かを両手で握りしめている。目線の先には、後輩の少女。いつも通り綺麗な笑みを浮かべているが、その表情はどこか苦しそうで、薄ら涙も浮かんでいる。しかし、そのどことなく焦点が合っていない潤んだ瞳には、同時に暗い歓喜の色が浮かんでいた。
ゆっくりと、彼女の口が動く。
「先輩の手で、私の息の根を、止めて……?」
絶え絶えな息で発せられた言葉は、無事、伝わった。伝わったけれど、状況が把握できない。彼女は何を言っている?
「どうしたんだ? 何か厄介な呪いでももらったのか? ああ、死神一高の実習、ということか? それにしては随分と物騒だな」
少女は何も答えない。聞こえていないのかもしれない。ただ、笑ってその白い手を、架印の腕に添えてくる。……架印の腕? 自分は今、何を、している? 見下ろした先、少女の頭顱の下、その細い首に絡みつく無骨な、自分の、手があった。
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