鳥の囀りと獣の気配を纏わせた、霧がかる峠道を通り抜ける。ガタガタと車体を揺らしながら真っ白な世界を過ぎると、眼前に広がる景色はついに開け、混ざり合った空気が空一面に躍り出ていった。
黒一色に染め上げられた広大なキャンバスに散りばめられた幾光年の灯。
山々に囲まれた先にあるそこは周囲を一望できた。
常緑の針葉樹に混じり彼処に赤と黄が顔を出している。ざわざわと秋の夜風が一帯を吹き抜けた。
荘厳で、幽寂で、精彩であった。
運転席の男はハンドルを緩く切り舗装道から逸れる。手つかずの小脇に年代物の愛車を停めると車外へと出で立った。
夜が終わろうとしている刻だった。
天気のいい、どこまでも広がる天井は雲一つない。煌々とした丸い円は山々の間へ姿を隠そうとしていた。その反対側では、橙色の光が夜と混ざり合って淡く滲みを広げていた。
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