吸血鬼ルシアダ第一話:出会い夜の帳が静かに降り、世界が闇に包まれるころ。
山あいにひっそりと建つ古びた石造りの屋敷が、ようやく目を覚ます。
屋敷の主は、今日もひとりだった。
高い天井に吊るされた燭台に、赤く炎が揺れる。
広すぎる広間。磨かれた大理石の床には、誰の影も映らない。
長い指先でワイングラスをなぞる。その中身はもちろんワインではない――けれど、今宵は飲む気も起きなかった。
数百年もの時を、夜と過ごしてきた。客人もなく、声を交わす相手もいない。彼の周りにあるのは、魔法で動くつまらない玩具と、忘れ去られた古き記憶だけだった。
壁に掛けられた仲睦まじい家族の絵画はもう半世紀以上前の物だった。
広間の玉座に腰掛けて長い指先が、手元のグラスを持ち上げる。中に満たされているのは赤黒く濃い液体。遠く街から密かにやって来た信徒どもが、悪魔の力を求めて差し出したものだ。
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