遠恋8年目のイチャイチャな日常 仕事帰り。金曜の午後七時。
黒尾は駅から自宅までの道を走っていた。駅から徒歩二十分。家賃と利便性の妥協の結果の物件に住んで三年になる。普段なら夜風を感じながら気持ちよく歩いてるその道を、身長に見合った長い脚で、現役時代のランニング以上の速度で駆ける。
スーツを着たサラリーマン風男性が、住宅街の中をそこそこの速度で駆け抜ける様子にすれ違う人は思わずギョッと視線をやるが、黒尾の口元や目が緩んでいるのを見て取ると、非常事態ではなさそうだとまた目をそらす。そっと見て見ぬふりをしてくれる見知らぬご近所さんに感謝しながら、黒尾は腕時計を確認した。
電車が微妙に遅れたせいで、狙っていたバスに乗ることができなかったことが悔まれた。バスなら五分、走って十分。黒尾は最寄り駅に着く直前に届いたメッセージアプリの文章を思い出す。
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