ウインドスプリント「ねえ、上腕二頭筋触らせてくんない?」
唐突なトガシの要望に、浮かんだ感情は一言で言うと困惑、だった。
「…え…良いけど」
「ありがとう」
すりすり、と触ってくるその手のひらを妙に意識してしまい、ジワリと額に汗が滲むのがわかった。
「ちょっと力入れてみてよ」
「あぁ…うん」
言われるがままに、拳を握って力を入れる。
トガシは神妙な面持ちで頷きながら小宮の腕を触り続けている。一体、何がしたいんだろうか。
人付き合いから遠ざかっていたので、これが友人同士、よくあることなのかなんなのか、見当もつかなかった。
男同士の筋肉チェックとか?
お互いアスリートだしな、まあ…あるか。僕はやったことないけど。
まさか敵情視察か?
ぐるぐると考えを巡らせるも、念入りに腕を撫でるトガシの手が止まる気配はない。
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