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    ma_hirune100

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    意識しだす宮トガ

    #宮トガ

    ウインドスプリント「ねえ、上腕二頭筋触らせてくんない?」

    唐突なトガシの要望に、浮かんだ感情は一言で言うと困惑、だった。

    「…え…良いけど」

    「ありがとう」

    すりすり、と触ってくるその手のひらを妙に意識してしまい、ジワリと額に汗が滲むのがわかった。

    「ちょっと力入れてみてよ」

    「あぁ…うん」

    言われるがままに、拳を握って力を入れる。

    トガシは神妙な面持ちで頷きながら小宮の腕を触り続けている。一体、何がしたいんだろうか。
    人付き合いから遠ざかっていたので、これが友人同士、よくあることなのかなんなのか、見当もつかなかった。
    男同士の筋肉チェックとか?
    お互いアスリートだしな、まあ…あるか。僕はやったことないけど。
    まさか敵情視察か?
    ぐるぐると考えを巡らせるも、念入りに腕を撫でるトガシの手が止まる気配はない。

    「小宮くんさ、上半身どうやって鍛えてんの?俺なかなか上、つかないんだよな」

    確かに、自分は他のスプリンターに比べても、上半身の筋肉量が多いかもしれない。と、言うよりか大きくなりすぎてしまうというか。そうなると当然体も重くなり不具合も多いのだが、まあ、その分股関節筋を鍛えれば良いだけの話だ。そんなやり方を気が遠くなるほど繰り返し、今の走りになったんだった。

    それにひきかえ、トガシは速く走るために生まれてきたような体だ、と小宮は思う。
    その上、想像もつかない程の努力が加わったその体は、手に入るなら手に入れてしまいたいような、自分のものにしてしまいたくなるような、小宮の理想そのものだった。

    トガシと、子供の頃のように走りの話ができるのは嬉しかった。


    「体幹トレーニングは結構、重視してる」

    「へー。ちょっと、服脱げる?腹直筋も見たいんだけど」


    瞬間、思考が止まった。

    いやそれは流石にちょっと。
    絶対に違うんじゃないだろうか。
    でも、トガシが言うなら。
    小宮は基本的には、トガシの言うことは全面的に信用してしまうのだった。

    「…これでいい?」

    流石にトガシの目の前で上を全部脱ぐのは抵抗があったが、勿体ぶって少しだけ捲るのもなんだか違う気がして、結局は投げやりに脱ぎ捨てた。


    なんなんだろう、この状況は。


    日本陸上の決勝後、自然と会う機会が増えていた。
    トガシの方から急に、小宮くん、小宮くんと距離を縮めてきたように思う。

    戸惑いはあったものの、トガシの隣にいるのは不思議と、しっくりときた。
    ただ、しっくりきすぎてなのか、色々と不都合が出てきているのも事実だった。

    例えば、トガシに先約がある時。
    誰と会うのか、何をするのか、どこに行くのか。仕方なく行くのか、それとも喜んで行くのか。そんなことが、過剰に気になってしまう。

    それが何故なのか、人間関係の経験値が低すぎる自分にとっては考えても分からないことだった。そして分からないまま、今こうして上半身裸になり、嬉々としてトガシに体を見られている。

    嬉しそうだからまあいいか、どうにでもなれ、とぼんやりとトガシの顔を見ていると、ふと思い当たることがあった。


    「トガシ君さ…僕の体、好きなの?」


    そう言った途端、トガシの肩がピク、と動いた。


    「…は?はあ?!いや好きとか嫌いとかじゃなくてさ、ただ!俺は!参考にしたくて!ハァ、もう、変なこと言うなよ!」

    じゃ、ありがと!と、とってつけたように吐き捨てたトガシは、小宮が脱ぎ捨てた服を乱暴に投げてよこし、背を向けてしまった。

    その勢いに呆然とするしかなかった。

    ただ、小宮の体を見るトガシの表情が、以前一緒に食べに行ったハンバーガーを手に取った時の表情と同じだったから、ふと思いつきで口に出しただけなのに。

    トガシが筋肉マニアで、あの500円のハンバーガーと同じくらいだけでも、もしかしたら、僕の体が好きなのか、と思っただけだったのに。


    …本当に深い意味はなかった。
    自分にとっては。

    トガシの形の良い耳が真っ赤になっているのが、少し離れて座る小宮からもはっきりと、見えた。

    瞬間、気付いてしまった。

    人間同士、うまくやるのは難しい、と思う。
    レースと違い、全く対策ができない。

    うまくいかない気しかしない。
    勝てないのは分かってるのに、追いかけたくなる。受け入れてもらえるはずがないのに、期待してしまう。

    僕の体が見たいなら、いくらでも見せられる。君が何が欲しいのかさえ分かれば、僕は何でも渡せる気がする。

    先走る気持ちを確かめるために、

    次、僕の番だよね?と背中に声を掛けた。
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