浴衣と待ち合わせの話 お祭りのせいだろうか、街を行き交う人々の間には、浮ついた空気が流れている。
例に漏れず自分もその1人で、なんとなく足元に目を落としてみる。視界に映り込むのは下駄と浴衣の裾。それにキラキラと光るフットネイルは、自分の浮かれ具合を表しているみたいだった。
そう、私は今浴衣を着ている。しかも手塚には予告も匂わせもしていない。
中学最後の夏、私も手塚も部活と勉強に追われる慌ただしい日々を送っている。今日もお祭りデートといいながら、2人とも直前まで部活があった。だから"手塚も私が浴衣を着るとは予測できないのでは?"という算段があるのだ。
練習が終わると駄べりながら楽器を片付けるいつもと違って、今日はテキパキと仕事を追えた。いつも一緒に帰るメンバーにも「今日はごめん!」と半ば置き去りにしてしまったけど、なんとか着付けを間に合わせることが出来た。
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