僕の幻 紫唯「こんにちは。」
聞き覚えのある声、僕にとって特別な声。
唯臣は先日、交通事故に遭った。幸いにも命に別状はないが、僕の記憶だけ…綺麗に全部忘れている。
「本当に…本当に僕が誰か分からないん?」
「………。」
「分からない。でも玲司くんや奏くんから君の話は聞いたよ。」
信じられなかった、あんなに一緒に時間を過ごしたのに。
こんなにも簡単に壊れてしまうなんて。
生まれて始めて、大事なものを失った。
自分が思っているよりもショックで、そんな自分が嫌になった。
「宇治川…さん?宇治川くん?紫夕くん?どう呼んだらいいのかな。」
なんて返したらいいか分からない。いつもみたいにまた、紫夕くんって呼んで欲しいはずなのに。
「宇治川くんで…ええよ。」
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