まだ青い海 低い縁石で隔てられた車道を、オレンジ色の軽ワゴン車がすれ違いに走っていった。
平日の日中という時間帯のせいか、道を通る車は疎らだ。歩行者もほとんど見かけないのは、自家用車が主な交通手段となる地域ならではのことだろう。
車道の向こう側には低い堤防があり、その先は海が広がっている。まだ高い陽に照らされた波間は穏やかに青く、さざ波がきらきらと光を弾いていた。
車通りが間遠くなれば辺りに響くのは潮騒と、自分たちがアスファルトを踏む微かな足音ばかりだ。
ただふたり分の足音が、波音に重なり果てなく続いている。
道に揺らめく陽炎の先に小さな町が見え、炭治郎はほっと息を吐いた。道行きの始めに開けたペットボトルの水が尽きかけていたからだ。五月の陽射しは存外に容赦がない。
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