傑は毎朝僕より早く布団から抜け出す。
布団の端から蛇のようにするりと抜け、襖も最低限だけ開けて、最低限しか音も立てない。
完全に出ていったあと、眠い瞼は閉じたまま手を伸ばすのは傑がいた場所。目は覚めているけれど、まだ体も頭も十分に動いていない。だけど二度寝するほど、眠くもない。蝉も朝から煩い。
傑の体温のかたちがそこにはまだある。
僕はそれを確かめるように寝返りを打ち、体温の後を抱きしめるようにシーツに顔を埋める。
すぅと吸い込めば、傑の匂い。少し汗ばんだ、自分の愛しいものの匂いだ。
シーツに残っていた体温が、自分の体温で上書きされてしまった頃、僕は体を起こす。
低血圧な体でのろのろと起き上がり、浴衣の裾を片手で直す。傑の出ていった襖を引く。ペタペタと足音を鳴らしながら、傑の気配がする方へ向かって、広い屋敷の廊下を歩いた。
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