令和の米屋と奥さんとジョーとチェリーと 始まりこそあんなだった俺達だが、改めて気持ちを伝え、晴れてお付き合いをすることになった。
これまでの俺はと言えば、配達先の客に惚れて恐ろしく不毛な片想いを始めてしまい、せめて声を聞きたいとか顔が見たいとか、よこしまな気持ちのまま桜屋敷先生の家へと出向いていた。今思えば申し訳ないでしかなかったが、相手も似たような心境だったとわかり、俺達の間では此処でのコンプラはノーカンとなっている。
それでも、薫が初めて伝票に書いてくれた『桜屋敷薫』の筆跡は、付き合う前からお守りのように持っていた。今改めて考えたら気持ち悪いでしかない行動が恥ずかしくて、薫にはとても言えたもんじゃない。
付き合おうと言った後、薫は少し逡巡したようだったが、暫くしてこくりと頷いてくれた。
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