狼と蝙蝠傘「賭けに出たが、こりゃ俺の敗けだな。」
梅雨時期とはいえ、突然の土砂降り。酷いものだ。仄暗い街中。近くにあった古い喫茶店の軒下で雨宿りを決め込むことにした。大きい雨粒が跳ねるアスファルトを横目に煙草を燻らせる。
———————————————————
傘は、忘れずに持ってきたのだ。
黒い蝙蝠傘を片手に煙草を買いに出掛けた。
雨足が少しずつ強くなり始めた頃、そんな時に限って見つけてしまった。聴こえてしまった。
すれ違う大人達の靴音や雨の音に混じって、傘も持たず泣いている子供を。
親と逸れたのかそれとも別の何か、かは分からないが年端もいかない女の子だった。
通り過ぎようとしたが足が止まる。どうにも『ああいう子供』を見ると、放っておけない。
1047