この世が春じゃなくても 獅子神が新宿三丁目駅の地上出口を出たとき、村雨はすでに待ち合わせ場所にいた。
旧甲州街道を挟んだ歩道沿いに白い商業ビルが傾いた日差しを受けて光っている。それを背にして黒っぽいシルエットの男が静かにたたずんでいた。
時間を確認するために時計に視線を落とす。待ち合わせまではまだ少し早い。
村雨は基本的に待ち合わせ時間に対して早すぎることも遅すぎることもない。ほぼオンタイムで行動する合理的な男だ。珍しいこともあるもんだと目を眇めたとき、冷たい風が吹きつけてきて、獅子神は思わず身を竦めた。
十二月に入った途端、季節は一気に冬まで進んだらしい。半月前までは薄い秋物のコートで充分だったのが嘘みたいに連日寒い日が続いている。それを反映するように、今日の村雨は厚手のロングコートをしっかり着込んでいた。
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