偏愛「お前、疲れてるのか?」
いつも通り食事を用意しに来た参謀に将校が声をかける。
「何を急に?」
「質問に質問で返すな。」
「これは驚きましたね、捕まっている貴方が私に指図するなど……」
「くだらない。いいから応えろ。」
将校を後ろ手に縛っていた縄が解かれ、胸の前で手錠がかかる。ポケットの中の小銭を動かしたように鳴く鎖が、参謀の手の内まで伸びている。
将校の座る椅子の前、やけに仕立ての良いテーブルクロスのひかれたその上に、スープにパンと、焼いた肉の、筋のないところが並べられた。
紅茶のカップを音もなく置いた参謀がお言葉ですが、と口を開く。
「黒い油を取り逃した事を散々咎められ、果ては私に怪我を負わせた貴方の始末が決まるまで世話をさせられていて、疲れていないとでも?」
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