十色な正義「お前は私の恥だ、朧に溶ける奸賊め。」
突如として降りかかった息苦しさと冷えに少年は不機嫌をあらわにする。
薄ぼんやりと滲む視界に映る世界は白と異質な黒だけだった。
「起きたか」
聞き馴染みのある、傷に染み渡る深い声。少年はテンプレート化したこの言葉に何度も起こされてきた。
「そりゃあ……起きるっスよ。こんな事されれば」
少年の面前に仁王立ちする長身、黒尽くめの男は軽くなったポリバケツを放り投げ、軽く肩を上下させた。そしてキャップの影から覗く丸い目は少年を捉えてじわりと半月に変貌する。
「おはようアンタクティカ。通算52回目の気絶じゃぞ」
少年の名はアンタクティカ。
正義の為にと手に入れた力を上手く扱えぬばかりか悲劇を引き起こす。しかしそれが故に
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