比翼桂が周囲をさりげなく牽制する話 長州藩京屋敷。
池田屋の一件以降、大きく動けなくなってはいたものの、掻い潜りながら行えることは山のようにある。人の出入りが絶えることはない。
血気盛んな若者も多くおり、穏健な思想を持つ者と喧嘩に発展することも珍しいことではない。そんな彼らを束ねる桂は日々忙殺されていた。にも関わらず、よほどのことが無い限り叱責することはなく、相変わらず穏やかな様相を呈している。そして普段からその態度を保っているが故に『今日は特別機嫌が良い』と気付く者は少ない。
昼餉の頃合いの少し前。
渡された書簡を眺め、伊藤からの報告を受けながら、桂は口元を緩めた。
「ご苦労様、この短期間でよくやってくれたね」
「いえ、なんてことありません!」
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