月の裏側一
表情を強ばらせた山姥切は、手合わせ部屋へと向かっていた。
今しがた、主より近侍を降りるように命じられた。理由は言われなかったが、自分ではっきりわかっている。小田原への出陣で大失態を犯したからだろう。
後悔ばかりが頭の中を渦巻く。自分は近侍で、部隊長であるにも関わらず、自分のことしか考えていなかった。あと少しで敵の部隊長が打てると思い込み、相手の力量を測ることを放棄した結果、仲間を、兄弟を、危険に晒してしまった。
兄弟はその時、たまたまお守りを持っていたお陰で破壊は免れたが、もし持っていなかったらと思うとゾッとする。
近侍の任は長谷部に移されたらしい。正直に言って、山姥切はほっとしていた。長谷部のほうが近侍を上手くやってくれるに違いないとずっと思っていた。長谷部は物言いもはっきりしている。長谷部自身も、近侍になることを望んでいたと聞いたことがある。彼ならば、写しの自分なんかよりはずっと優秀な近侍になるだろう。
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