after No.5篠田正志は金曜日だった。
否、だった、というのは正確ではない。
何故なら、一度たりとも、『篠田正志』は『金曜日』たり得ず終いだったからである。
「うーん」
篠田正志は、ふらふらと散歩をしながら思考を巡らせていた。その内容は言うまでもない。ヨツビシへの就職を辞めようと思ったこと。それを、家族にどう説明するか、ということである。
(流石に、父さんの会社が殺人会社だから、何て言うわけにいかないもんなぁ)
「思い切って、なにか別の仕事に目覚めたということにしてしまおうかな」
正志は呟く。
うーん、うーんと唸りながら、あてもなく歩く。
途端、横から出てきた人の波に呑まれた。
「わッと」
正志はそれを避けると、波の出所を見る。映画館だった。
2095