大寿君お誕生日おめでとうSS「大寿君、誕生日って、何か欲しいものある?」
精一杯さり気ないふうを装って、三ツ谷は訊ねた。
学校帰り、三ツ谷は高校の制服で、大学生になった大寿は私服で落ち合った街中。
「誕生日……?」
誰のだ、というふうに大寿は一瞬怪訝そうな顔をしてから、「ああ」と頷いた。ようやく、自分の誕生日が近いことを思い出したらしい。
(やっぱ柚葉とか八戒とかには、祝ってもらってなかったんだなあ)
その態度で三ツ谷は察してしまった。少なくとも大寿が家を出てからこの数年は、誕生祝いも何もなかったのだろう。いや、父親は子供よりも仕事、母親は早くに亡くなったという柴家で、たとえば三ツ谷家のようにいちいち子供たちの誕生祝いなんてはなから催されていなかったのかもしれない。
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