紅い月を追いかけて ヒースローからアンカレジ経由で成田へ降りたった時、サガは心底うんざりしていた。不慣れな長距離の空の旅は、たとえ慣れ親しんだ母国の言葉や食事でもてなされても億劫である事に変わりはない。ウォークマンが再生と逆再生を何度も繰り返し、退屈しのぎの雑誌がくたくたになった頃、ようやくその身は窮屈な座席から解放された。
これでもかという程の手続きの応酬と人混みの歓迎を受けながら、タクシー乗り場で小さなセダンに乗り込んだ。ホテルの予約控えを運転手に見せ、筆談でおおよその運賃を確認し終えると、ようやく後部座席の窓から外を眺めるゆとりができた。高速道路の面白みのない景色をぼんやりと眺めながら、こんな極東に来るまでの事を反芻する。
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