朝を待ってた(寂乱) 夜明け前の街はぼんやりとした薄い青色に包まれている。ひっくり返ったごみ箱も、路上で眠る酔っ払いも、無言で足を動かすちぐはぐな二人組も、別け隔てなく。
普段の喧しさが嘘のように、乱数は黙りこくったまま寂雷の二歩先を歩いている。丸い後頭部を見下ろしながら、寂雷はその後をついていく。時折後ろ髪がぴょこぴょこと跳ねる様を眺めていると、ようやく乱数がくるりと振り返る。じぃとこちらを見上げる大きな瞳の中に寂雷が映るのが見えた。
「こっち」
あ、と思う間もなく、乱数がぴょこぴょこと駆け出すので寂雷もつられて足を早める。何処かで烏の羽ばたきが聞こえ、歩行者信号がぺかぺかと瞬く。乱数は赤に変わった信号に構うことなく、横断歩道の白い部分だけを飛び石のように渡っていく。信号の色に思わず立ち止まった寂雷は、危ないよと声を掛けようとし、――気が付いた。
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