ステ5後、病院にて。 とりあえずしばらくはね。放り込まれた病室は、寂雷が手を回してくれたのだろう、同室は左馬刻だけだった。左隣のベッドに左馬刻、右隣の空きベッドには乱数が腰掛け鼻歌交じりに裁縫道具を広げている。適切な処置を施され着替えも済ませた一郎は、自分にあてがわれたベッドの上で乱数の手元を見つめていた。
「折角穴を塞ぐんだし〜可愛いのつけちゃおうね〜」
「フツーに縫ってくれ…」
これとかどぉ? 差し出された可愛らしさしかないアップリケに、一郎は勘弁してくれと首を振る。
「えぇー可愛いのに…」
乱数はぷくっと頬を膨らませ、膝に置いていた一郎のズボンをつつく。拳銃によって空いた穴の周りは自身の血で黒々としたシミになっていた。生地が黒いおかげで目立たないが、やはり捨てるべきか。勿体ないと呟いた一郎の為に、修理を買って出てくれた乱数には悪いけれど。
やっぱ、と口を開きかけた一郎に先回りするように乱数がぱっと笑った。
「とりま、一回シミ抜きしてから考えよっか」
「え、取れンのか?」
「ん~~~ここまで酷いとビミョーなとこだけど、チャレンジあるのみっ」
「……わる、」
「それにもし取れなかったら、一郎にはボクの新作着てもらっちゃうからね! ちょうど一郎に良さそうなのがあるんだよねぇ。モデルさんに頼むのもいいんだけど、たまにはチームメイトに着てもらってバズらせるのもありっていうか。あー、ボクの仲間の格好良さが世界に知れ渡っちゃうな〜」
一息に言い切った乱数は満足気だが、服をプレゼントしてくれる、とも取れる。そんなまさかと内心首を振りつつ、どうしようと一郎は左馬刻を振り返った。目が合った左馬刻は白けた顔で、礼言っとけ、とひらひらと手を振る。その言葉に、勘違いではないのだと一郎は思わず唇を引き結んだ。
「乱数も回りくどい言い方すんな」
「ボクは一郎を格好良くしたいだけですぅ〜」
「今は悪いってか?」
「そりゃあ、こんな病院着じゃねぇ。サマトキサマも全ッ然イケてな〜い」
朗らかな乱数の笑い声が殺風景な病室を塗り替えるようだ。左馬刻の目元は穏やかにゆるみ、一郎の次の言葉を見守っている。二人は否定するだろうが、室内には優しさが満ちている。それに耐えきれず顎を引いて俯くと、ぐっと力を込めた拳が目に入った。どうしよう。シーツは握りしめた分だけしわが増え、一文字の口元がむずむずと動く。嬉しい。