やさしい時間 パチパチと暖炉の中で薪が弾ける音がする。
大きく爆ぜることもなく良い音で燃え続ける火からは煙も少ない。しっかりと乾かしたクヌギの薪が出す音色を子守歌代わりに俺の用意した毛布の上で千空ちゃんが丸まってうたた寝をしていた。
白い毛皮に覆われ、頭部の耳の間と尻尾の先だけ緑色のグラデーションがかかった珍しい色。今は閉じられた瞼の下に隠されている瞳は紅玉のように美しい猫だ。
以前は人間の飼い主に飼われていたようで相当大事にされたらしい。老いて妖怪になっても人間に仇をなすことはせず、元の飼い主が追いかけた宇宙に興味を示し、人間に化けて科学を研究したいと俺の元へ人化薬を求めてやってきた。
もちろんただで高価な薬や術をかけてやるほど俺もお人よしではなく、断ろうとしたところ対価として住み込みで働くといって引き下がらなかった。彼がいなくても魔法で全部何でも出来てしまう。
3155