出来損ないの歯車たち「抱かせろ」
つい一秒前まで自室のドアノブを見ていたはずの俺の視線は、一瞬のうちにひっくり返され、今は銀色に輝くナイフの先端と、その奥にある深いアメジスト色をした瞳を捉えていた。
「えぇと……?アジサイ。これはお誘い?それとも脅迫?」
彼の目に殺意が込められていない事を確認した俺は、次に現状の確認を行う。
「…………。」
俺の問いかけに一瞬だけ大きな彼の瞳が更に見開かれたと思ったら、「チッ」と舌打ちを一つ残して消えるように彼は去っていった。
「レンくん。アジサイに誘われたんだって?」
パソコンから顔を上げたサワさんが、思い出したかのように今朝がたの話を俺に持ち出してくる。
「誘われたっていうか……多分何かを間違えたんじゃないですかね?」
7781