煽り煽られある日、ガープは初めてセンゴクにキスをした。寮の部屋で後ろから肩を叩いて、振り向いたところに不意打ちで唇を重ねた。何がしたかったのかと問われれば『好奇心と衝動』と答えるような、突発的な行動だった。
一瞬のその行為を糾弾するでもなく、センゴクは僅かに眉尻を上げると「何だ」と当然の疑問を口にした。てっきり反射で拳の一つでも飛んで来るかと予想していただけに、拍子抜けの反応だった。
先の行為に意味など無いことがわかると、センゴクは捩っていた体を戻して机に向き直り、読書を再開した。照れ隠しでも何でもなく、前触れのないガープからのキスという、まともな人間であれば間違いなく狼狽えるか放心するであろう異常事態を、センゴクは平時と同様の冷静さで掃いて捨てたのだ。
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