ただのわたし ジャリムバハ砂漠の夜は深く、手元に灯りがなければ自身の足元を見ることすらも叶わない。おまけに砂漠の夜は冷える。暖を取らなければ夜を越すことも難しい。もしこの場に道に迷う観光客がいるのであれば、地元住民は口をそろえて、「南へ向かえ」と答えるだろう。
ジャリムバハ砂漠の南には、砂の都ファラザードが存在する。ファラザードは交易と交渉の国だ。城下町の入り口を通りすぎると、すぐにバザールに迎えられることになる。そこには武器屋、防具屋、道具屋などの冒険者向けの店だけでなく、魔物が経営する怪しげな店も軒を連ねているのだ。ファラザードは何者も受け入れる自由の国である。国のあり方は王のあり方だ。つまり、ファラザードの王であるユシュカもまた、自由を愛しているのである。
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