お題「紅葉」、「片想い」 ――小倉山 峯の紅葉葉こころあらば 今ひとたびの みゆき待たなむ。
貞信公、『拾遺和歌集』
頭を相手の肩に預け、記憶の片隅へと押し込んでいた和歌を詠む。
夏は過ぎ、紅葉は黄にも赤にも色付く季節へと移った昨今。触れたいと願う心だけが日に日に増長し、だからといってこの距離は縮まず、いつかあの葉のように散るのではないかとすら思う。
「和歌ですか?」
「そ。小倉山の峰の紅葉に心があるなら、どうか、もう少しだけ散らずに待っていてほしいって意味のヤツ」
オレは不思議そうに小首をかしげる男の頭に腕を回し、そのまま引き寄せて、子どもが甘えるみたいにすり寄った。
「それはまた、風流ですね…?」
「何で疑問形なんだよ」
「いや、ずいぶんとサマになるなと思って」
1317