お題「秘密」 「龍星君、」戸惑ったように、それでいて切なげに名前を呼んでくる男。驚くほどに真っ直ぐで、からかい甲斐のある松野千冬の友人。そして、オレの恋人――花垣武道だった。
「よっ、武道。オハヨウ♡」
「お、おはよ…」
たどたどしい口調で挨拶を返した武道はぎゅうと鞄の取手を握る。それから、目を細めて視線をさ迷わせたあとで覚悟を決めたように口を開く。
「さっ、さっきの女の子、って…」
次第に小さくなる声音。その大きな眼には薄っすらと水の膜が張り、今にもぽろぽろ泣きそうだ。
「ん〜、道を訊かれてただけだって。あァ、もしかして妬いたぁ?」
「う、うん、妬いた。龍星君はモテるし、ホントはおんなの子と付き合いんじゃないのかなって…。だからオレらの関係を他の人には言わないのかなって思って…」
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