最初のはなし 街の喧騒から遠ざかるように続く山道の先、青々と生い茂る草木の中にひっそりと佇む古い寺のような家屋があった。
山道を登り木々の隙間からその姿を見せると、次第に聴こえてくるのは、ピアノの音。
「運ー、来たよ」
玄関の引き戸を動かせばカラカラと乾いた音が響く。
通り抜けるような風を一身に受けながら、少女はこの家にいるだろう人物へと声をかけた。
「おーメロリ、仕事終わんの早かったん?」
玄関から続く廊下にはいくつか連なる障子があり、そのひとつが開くと運と呼ばれた少年がひょこっと顔を覗かせた。
彼の気さくな物言いとカラッとした笑顔に、メロリと呼ばれた少女は貼り付けたような笑顔から柔らかい微笑みにその表情を変える。
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