それはきっと切符診療所にはビデオカメラがあった。
数年前、一也がこちらで生活するようになった頃に富永が買ってきたものだ。
「お母さんの為にいっぱい撮りましょうよ!子供が成長するのは早いんですから!」富永がそう熱弁したのを、一人は今でも覚えている。
運動会、発表会、誕生日会、イベント毎に撮影をした。そしてそれらをDVDに保存し、手紙と共に一也の実家に送っていた。
しかし、一也が成長するにつれ、撮影の機会がだんだんと減っていった。中学3年生になる頃には、ビデオカメラの役目はほとんど無くなってしまっていた。年に数回光が差す引き出しの中で、大切に仕舞われていた。
ところがある日、富永はビデオカメラをテーブルに置き、一人に向き合ってこう言った。
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