花より、団子より、
満開の桜の木の下にゴザを敷き、持参した弁当やら和菓子やらを広げる。光風が桜を揺らし、ひらひらと春空に舞っていく。常日頃とは打って変わって、穏やかな、平和な、そんなひととき。
「この稲荷寿司、というものは美味いナ」
「箸の使い方も上手くなっただろう?」
「花見団子……うん、納得できる」
日本式の花見をしたいとごねてごねて仕方なかったから、わざわざシミュレーターを借りて再現してやったのだ。多少骨は折れたが、楽しげに笑う彼の表情を眺めていると小言をいう気も失せてくる。
「……杉谷」
ふ、と目の前に影が落ちる。彼の手が、こちらに伸びてくる。晴天に浮かぶ太陽の瞳が、俺を見つめている。
……あ、だめだこれ。頰に熱が集まってくる。思わずぎゅうっと瞼と閉じれば。
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