雨が降っている。
天気予報が外れた、にわか雨の中。残照はコンビニで買った透明な傘をさして、空を見上げながら帰路についていた。雨に関わる名前の同僚をふと思い出し、糸雨とはこんな感じの雨なのだろうか、などと考えていると、
「にゃあ」
猫の鳴き声が聞こえた。下を見れば、野良猫と、雨宿りしている子供の姿。どこか不安げな顔をして猫と話していた。
「なあ、これいつ止むのかなあ」
「にゃあ」
「てんきよほーだと晴れだっておかあさん言ってたのになあ」
「にゃあ」
「はやくかえらないとおこられちゃう…」
「にゃあ…」
そうか、と思い当たる。この子どもは、傘を持っていないのだ、と。少しずつ強まってきた雨脚は、子どもが濡れて帰るには些か強いかもしれない。どうせおれが持っているのは安物のビニール傘だ、あげてしまっても問題はない。愛着もないことだし。
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