天上楽土の、(途中)弟が生まれたと同時に俺は番を手に入れた。
天竜人。それは天に座す人ならざる存在。神そのもの。
そんな種族に生まれ、優しく美しい母、穏やかで博識な父に育まれ、神として生きる。そんな生に不満などあるものではない。
無い筈であるのに何か足りない、欠けた様に感じていたことに気付いたのはその二年後、己の弟が生まれた事によってその空虚さを知った。
「ドフィ、貴方の弟よ」
穏やかに、嫋やかに、母が微笑む。腕の中に小さな小さな、生まれたばかりの赤子を抱えて。
ほにゃほにゃと泣くその姿は、己と同じ神に座す天竜人とは思えない。
だが、これは己のものだ。己が待ち望んでいたものなのだ。
「守ってあげてね、ロシナンテを」
ね、お兄ちゃん、と柔らかな口調で告げられる。弟。己のたった一人の弟。だが、それだけではないと、本能が叫んでいた。
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