結び目の条件 一つ条件を提示してもいいですかと彼は言った。
常に人前で隙を見せず堂々としていた彼が自信なさげに俯き、消えてしまいそうな声で口にしながらだ。上着の裾を軽く引いて意識を自分に向かせた後も、彼はその手を離すことはなかった。幸い震えてはいない。恐怖や畏怖が彼を支配していないことに一先ず安堵し、俺は目の高さを合わせようと膝に手をついた。
「一つと言わず、君が必要なだけ提示してくれて構わないよ」
俯いた顔を覗き込もうとして、しかし、彼は俺から逃げてそっとそらした。
「一つでいい」
「そうか」
「貴方は?」
「俺か?」
「貴方からは無いんですか?」
条件とやらを口にするのかと思えば、こちらが先らしい。平等にいきたいというところだろうが、生憎大してこれといった条件はなかった。強いて言えば今からしようとすることですべて約束されたようなものだから、付加したいものなど何もない。
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