秘めし想いは蜜の味 まるで絵に描いたように晴れ渡った皐月の空に浮かぶ白雲の下、開け放たれた窓から心地よい風が吹き込み、柔らかくカーテンを揺らめかせる教室で、よく通る甘い美声で紡がれるのは、遥か古の恋物語。
もう既に大方頭に入っている万葉集の中から、特に年頃の男女にウケがいい恋詩を抜粋して、とびきりの美声を駆使して一句一句詠みあげるのを、俺は机に肘をついて目を閉じ、耳を澄ます。
教壇から降りたその人は、教科書を捲りながら相変わらず聴覚を蕩かすような甘い美声で、恋模様を奏でる。
教室内をゆったりとした歩調で歩きながら朗読し、少しずつ、少しずつ、俺の席に近づいてくる。
とくり、とくり、とくりと。
不可抗力にも鼓動が高鳴ってしまう。
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