やがて灰になる一
九月も終わりかけだというのに、うんざりするほど暑い日だった。一人暮らしをしていた女は、親戚の訃報を受けた地元の両親から、隣の区で執り行われる葬儀に参列するよう頼まれた。親戚付き合いなどと縁のない女は、顔も知らない故人の式で、不謹慎にも両親の死に際を空想し涙した。
動きづらい喪服に灼熱から身を守る日傘、引き物と何も入らないハンドバッグ、それを補うためのトートバッグ。そんな大荷物を引きずりながらやっとのことで最寄り駅まで引き返した女は、暑さから逃れるようにカフェへと足を運んでいた。最寄り駅ということもありよく使っているチェーン店である。平日の昼間であるためか、客はあまりいない。ひとまず荷物を置いて、レジで冷たい飲み物と軽食を注文する。財布を取り出そうとしたとき、背後から「This one」とメニューを指差す腕が伸びる。あまりにも突然の出来事に何も言うことができず、ただ勢いよく振り返る。そこには、金髪を丁寧にセットした外国人の男の姿があった。呆気に取られていると、その男はさも当たり前かのように女の注文分も支払いを済ませ、女が荷物を置いていた席に座ってしまった。
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