【再録】大正浪漫風オメガバース研日小説壁にかかった知らない人の肖像画や、黒々とした目でこちらを見つめてくる鹿の頭の剥製。
豪華だけど、余所者だと自分に告げてくるようなベッド。
ここは親戚の所有している別荘の、翔陽に割り当てられた部屋だ。
どこか威圧するような調度品の数々に、幼い翔陽は辟易していた。
でも、重たいカーテンを開けば、先に広がるのは緑と陽光。
鮮やかな景色は、翔陽の心を弾ませてくれた。
記憶にあるかぎり、はじめての家族旅行だ。
きっと楽しい時間が待っているはず。
そう気を取り直した翔陽は、両親がいる居間へ向かうことにした。
逸る気持ちが抑えきれず、扉を閉める際にうっかり大きな音を立ててしまい、慌てて周りを見渡した。
しんと静まり返った廊下には幸いにも誰もいないようで、ホッと胸をなでおろす。
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