『山猫の死』は画家ヴァシリ・パヴリチェンコの山猫シリーズのうちの一つであり集大成である。
死後、シリーズの内一つのキャンバスが重なっていることが判明する。
剥がしてみると、包帯で両目を覆われた黒髪の男が蝶々を指に乗せ微笑む絵が現れた。
それまでのヴァシリの作風とは異なるものだが間違いなく本人のものである。
「この男は誰だ」
という声は意外にもあまりあがらなかった。
「この男が“彼”か」
研究者たちが長年追っていた影がついに実像を結んだ。
ヴァシリは生涯独身だったが、彼の生涯のほとんどは謎に包まれていた。
生前ヴァシリが度々日本の北海道に足を運んでいたこと、自宅兼作業場には一切人を寄せ付けなかったこと、家のいたるところに取り付けられた低い位置にある手すり、一人で食べきれない量のアンコウを度々買っていったという魚屋の証言…など、謎多き画家の残した謎全てが一人の男に辿り着き、解けていく。
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