壊れかけの世界の、境界で《Shino》
『僕は多分、もうすぐ死ぬんだ』
「………は」
『あと五十年か…もしくは五年。来年かもしれない』
『魔法使いは余命が分かると聞いていたが、本当に分かるものなんだな』
「…………。嘘だ……。」
『残念だけど、本当だ』
『まだ誰にも話さないでくれ。お前に言ったのが初めてなんだ』
何千回目かの晩酌の途中、ファウストが突然そんなことを言い出した。ファウストが死ぬ?信じられない。だが、ファウストは冗談を言う性質ではない。何を言い返せばいいのか分からず困惑していると、ファウストは続けた。
『あと…お前はちゃんと、世界に愛されているよ』
突然どうしたのだ。何の脈略もない事をファウストが言うのも珍しい。
そもそも、そんな事は思った事もなかった。俺は生まれてすぐに捨てられた。苗字も持たない孤児だった。ブランシェットの御主人と奥様には随分と良くして頂いたが、二十歳になるより前に賢者の魔法使いとしての重荷を背負わされてしまった。
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