その男、危険物につき-1- 軽やかな足音が、まるで昼間のような真白い光を降らせる月夜に響く。夜の静寂に良く似合う心地良い足音の背後から、その静寂を荒らす複数の乱暴な足音と、前を疾走する足音の主を口汚く呼び止める声。
降り注ぐ月明りを弾く、目にも鮮やかな赤く長い髪を揺らしながら、イレヴンはちらりと背後を振り返ると、かすかに口角を上げた。イレヴンを追いかけてきているのは剣を鞘から抜き放った状態の数人の男。イレヴンが闇雲に走っているようで、目的の場所へ向かっている事に気付いているのかいないのか。
……気付いたとしても、その意図までは解んねぇだろうなぁ……。
のんびりと心の中で呟いて、イレヴンは背後からの殺気に小さく笑う。
一方、身軽な動きで疾走するイレヴンを追いかけていた男等は、イレヴンの走る道の終端に気付いて、唇を歪めるように笑みを浮かべた。
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