yui_ame_o
DONE夏の京都主従2夏の用事の帰り道、源一郎を案じる浮葉。
秋の別れ。
強いひと 暑い日だった。
日中の最高気温は四十度に達する見込みだと朝のニュースで耳にしたのを思い出し、源一郎はわずかに眉をひそめて視線を上へ向けた。
遠くにそびえたつ入道雲は新雪のように輝いているのに、頭上にたたえられた空は海のように涼やかなのに、照りつける陽ざしはじりじりと肌を焦がしていく。その熱を、まとわりつく湿気が封じこめて逃さない。
浮葉から持つように言いつかった風呂敷包みの重みは、普段なら気にならないていどのものだ。けれどこの暑さのなかではしだいに煩わしくなってくる。それでも、いや、それだからこそ源一郎は大切に腕に抱えなおした。
以前は御門家と懇意にしていた家からの、返却物だった。衣純が存命の頃、なにかの催し物で使いたいといわれて器を貸したことがあったのだという。送ってもらえば良いのではないか、先方から届けてもらえば良いのではないか、と思うが、そうもいかないらしい。
4092日中の最高気温は四十度に達する見込みだと朝のニュースで耳にしたのを思い出し、源一郎はわずかに眉をひそめて視線を上へ向けた。
遠くにそびえたつ入道雲は新雪のように輝いているのに、頭上にたたえられた空は海のように涼やかなのに、照りつける陽ざしはじりじりと肌を焦がしていく。その熱を、まとわりつく湿気が封じこめて逃さない。
浮葉から持つように言いつかった風呂敷包みの重みは、普段なら気にならないていどのものだ。けれどこの暑さのなかではしだいに煩わしくなってくる。それでも、いや、それだからこそ源一郎は大切に腕に抱えなおした。
以前は御門家と懇意にしていた家からの、返却物だった。衣純が存命の頃、なにかの催し物で使いたいといわれて器を貸したことがあったのだという。送ってもらえば良いのではないか、先方から届けてもらえば良いのではないか、と思うが、そうもいかないらしい。
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DONE夏の京都主従(7章と同じ年の夏)
そよ風の手に奏でられ、風鈴が澄んだ音をちいさく鳴らす。
広間にひとつだけ出された卓袱台の上、硝子鉢のなかの氷が軽やかな音で呼応した。
視線をやると、上座の浮葉が素麺を取るところだった。漆塗りの箸を操る指先はあいかわらず舞の一部のように優雅だ。
御門家に世話になるようになってから数えきれないほど幾度も目にしてきたが、今でも時おり、源一郎は彼の所作に見惚れることがある。日常からよろずうつくしく整えるよう細かく気を配ることが、演奏の際のあのうつくしい一音、一音に繋がっているのではないか。そんな思いをひそかに抱き、憧れながら。
食事時に一番ちいさな卓袱台ひとつきりを使うようになったのはいつ頃からだっただろう。
3218広間にひとつだけ出された卓袱台の上、硝子鉢のなかの氷が軽やかな音で呼応した。
視線をやると、上座の浮葉が素麺を取るところだった。漆塗りの箸を操る指先はあいかわらず舞の一部のように優雅だ。
御門家に世話になるようになってから数えきれないほど幾度も目にしてきたが、今でも時おり、源一郎は彼の所作に見惚れることがある。日常からよろずうつくしく整えるよう細かく気を配ることが、演奏の際のあのうつくしい一音、一音に繋がっているのではないか。そんな思いをひそかに抱き、憧れながら。
食事時に一番ちいさな卓袱台ひとつきりを使うようになったのはいつ頃からだっただろう。