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INFO【通販のお知らせ】一次創作小説『冷土にて』物理本の委託通販を始めました。
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DONE一次創作。一人称俺と一人称俺が共依存になる話。第九話→(https://poipiku.com/214064/10565218.html)
SS→(そのうち)
冷土にて エピローグ 雪路は無事に巣文と千崎の下まで辿り着き、二人に肩を貸されながら千崎の車へ戻った。朝方に開始された霧への進行は、約十七時間後の深夜に雪路の帰還をもって完了とされた。
生還を果たした雪路の表情に安堵の色はなく、何も語ろうとしない。頬に涙の流れた跡を沢山残して、焦点の定まらない目で座席に収まる。
穂波たちや霧の奥の様子が気になっていた巣文と千崎であったが、雪路のただならぬ様子に圧倒され、何も訊くことができない。
巣文がここから最寄りの病院へ連れて行くことを提案すると、雪路はそれを激しく拒み、ただただ一刻も早く自分の町へ向かうように懇願した。嫌がる雪路を無理やり連れて行く自分たちがまるで悪者のように感じ、二人は雪路の希望通りに進路を変える。
4597生還を果たした雪路の表情に安堵の色はなく、何も語ろうとしない。頬に涙の流れた跡を沢山残して、焦点の定まらない目で座席に収まる。
穂波たちや霧の奥の様子が気になっていた巣文と千崎であったが、雪路のただならぬ様子に圧倒され、何も訊くことができない。
巣文がここから最寄りの病院へ連れて行くことを提案すると、雪路はそれを激しく拒み、ただただ一刻も早く自分の町へ向かうように懇願した。嫌がる雪路を無理やり連れて行く自分たちがまるで悪者のように感じ、二人は雪路の希望通りに進路を変える。
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DONE一次創作。一人称俺と一人称俺が共依存になる話。第八話→(https://poipiku.com/214064/10548048.html)
エピローグ→(https://poipiku.com/214064/10565249.html)
冷土にて 第九話「濃霧」 車の向かう目的地は、中継地計画の拠点からさらに北東方向へ離れた位置。人里離れた山道の途中だった。集落まで歩く距離は都市側から向かう場合よりも長くなってしまうが、穂波たちが誰にもばれずに霧の中へ逃げ込むにはこうするしかなかった。雪路はその距離を往復しなければならない。
明け方に町を出発し、目的のポイントに着く頃にはあっという間に夜になっていた。その日の移動はここまでとし、雪路、穂波、尾研の三人は車内で夜を越す。
車は既に薄霧の中に入っているようで、真夏であるにも関わらず車内は肌寒かった。尾研が穂波のいる後部座席へ、雪路が助手席へ移動し、家具店からそのまま借りてきた毛布に包まれて眠った。
そして翌朝、こちらへ近づいて来る車の走行音で雪路は目を覚ます。
17596明け方に町を出発し、目的のポイントに着く頃にはあっという間に夜になっていた。その日の移動はここまでとし、雪路、穂波、尾研の三人は車内で夜を越す。
車は既に薄霧の中に入っているようで、真夏であるにも関わらず車内は肌寒かった。尾研が穂波のいる後部座席へ、雪路が助手席へ移動し、家具店からそのまま借りてきた毛布に包まれて眠った。
そして翌朝、こちらへ近づいて来る車の走行音で雪路は目を覚ます。
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DONE一次創作。一人称俺と一人称俺が共依存になる話。第七話→(https://poipiku.com/214064/10543017.html)
第九話→(https://poipiku.com/214064/10565218.html)
冷土にて 第八話「混線」 風向きが変わったのは、本格的な夏が始まってしばらく経ったある日のこと。
穂波が再び桔梗家具店を訪れ、アンリと対峙してから三か月にも満たない頃だった。
穂波と尾研は、中継地計画の現場に訪れていた。そこは都市から北向きに出て森を回り込んだ位置にある。都市の郊外から車で一時間ほどの場所だ。
プロジェクトの場所をこの位置に誘導したのは穂波だ。都市に住む人々の心情も考え、出来るだけそこから見えない位置に拠点を張るべきだろうと何度かさりげなく意見した。
穂波は集落の周囲全域の地理に詳しいわけではないが、この位置からなら森の途中で広い陥没地帯に突き当たるはずだった。外部からは霧に覆われていて、一見してそうとは気付けない。その地帯に辿り着くだけでもかなりの手間が掛かるため、集落が暴かれるまでいくらか足止めになるはずだ。ともすれば、計画ごと休止になるかもしれない。
13967穂波が再び桔梗家具店を訪れ、アンリと対峙してから三か月にも満たない頃だった。
穂波と尾研は、中継地計画の現場に訪れていた。そこは都市から北向きに出て森を回り込んだ位置にある。都市の郊外から車で一時間ほどの場所だ。
プロジェクトの場所をこの位置に誘導したのは穂波だ。都市に住む人々の心情も考え、出来るだけそこから見えない位置に拠点を張るべきだろうと何度かさりげなく意見した。
穂波は集落の周囲全域の地理に詳しいわけではないが、この位置からなら森の途中で広い陥没地帯に突き当たるはずだった。外部からは霧に覆われていて、一見してそうとは気付けない。その地帯に辿り着くだけでもかなりの手間が掛かるため、集落が暴かれるまでいくらか足止めになるはずだ。ともすれば、計画ごと休止になるかもしれない。
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DONE一次創作。一人称俺と一人称俺が共依存になる話。第六話→(https://poipiku.com/214064/10488116.html)
第八話→(https://poipiku.com/214064/10548048.html)
冷土にて 第七話「潮汐」 立織を森へ置き去りにし病院へと戻った穂波とミナトは口裏を合わせ、職員たちに次のように話した。
立織とミナトはいつものように穂波を見舞いにやって来た。
穂波の病室を出た後、ミナトは立織から「先に車へ戻っているように」と言われた。車の鍵を預かり一人で車で待機していたが、いつまで経っても立織はやって来ない。
不安に思ったミナトは病院に戻り立織の姿を探すが、見つけることが出来ない。再び穂波の病室に戻って立織の行方を知らないか尋ねるものの、勿論穂波にも分からなかった。穂波も自分のボディーガードである人物の身に何かあったのではと胸騒ぎがし、一緒に探しに行くことにする。
二人は病院を抜け出してその周辺を探し始めるうちにどんどん場所を離れてしまい、今の時間まで道に迷ってしまっていた。
13127立織とミナトはいつものように穂波を見舞いにやって来た。
穂波の病室を出た後、ミナトは立織から「先に車へ戻っているように」と言われた。車の鍵を預かり一人で車で待機していたが、いつまで経っても立織はやって来ない。
不安に思ったミナトは病院に戻り立織の姿を探すが、見つけることが出来ない。再び穂波の病室に戻って立織の行方を知らないか尋ねるものの、勿論穂波にも分からなかった。穂波も自分のボディーガードである人物の身に何かあったのではと胸騒ぎがし、一緒に探しに行くことにする。
二人は病院を抜け出してその周辺を探し始めるうちにどんどん場所を離れてしまい、今の時間まで道に迷ってしまっていた。
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DONE一次創作。一人称俺と一人称俺が共依存になる話。※児童虐待、暴力、私刑などの展開が含まれます。
第五話→(https://poipiku.com/214064/10450298.html)
第七話→(https://poipiku.com/214064/10543017.html)
冷土にて 第六話「紫陽花」 穂波が育ったのは、常闇の中だった。
これは正確な表現ではない。しかし自身の生い立ちを端的に語るとするならば、やはり始まりは闇の中だった。
深い水底のような色をした闇の中――。
穂波は、物心ついた時から青い霧の奥にひっそりと形成された集落の中で暮らしていた。
そこは所謂スポットと呼ばれる場所の中心地にある。とある山の頂に近い場所だった。
青い霧は多くの大気と混ざると濁ってしまうが、霧の純度が高い発生地一帯は不思議と霧の向こうが透けて見える。
常に、青いインクを垂らした水槽の中のような視界。
霧が常に湧き上がっているため集落のどこに居ても風を感じる。風力を利用して僅かばかりの灯りを保ち、生活の場のあちこちが青白い光で照らされているが、それでも常に薄暗かった。
13062これは正確な表現ではない。しかし自身の生い立ちを端的に語るとするならば、やはり始まりは闇の中だった。
深い水底のような色をした闇の中――。
穂波は、物心ついた時から青い霧の奥にひっそりと形成された集落の中で暮らしていた。
そこは所謂スポットと呼ばれる場所の中心地にある。とある山の頂に近い場所だった。
青い霧は多くの大気と混ざると濁ってしまうが、霧の純度が高い発生地一帯は不思議と霧の向こうが透けて見える。
常に、青いインクを垂らした水槽の中のような視界。
霧が常に湧き上がっているため集落のどこに居ても風を感じる。風力を利用して僅かばかりの灯りを保ち、生活の場のあちこちが青白い光で照らされているが、それでも常に薄暗かった。
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DONE一次創作。一人称俺と一人称俺が共依存になる話。第四話→(https://poipiku.com/214064/10350376.html)
第六話→(https://poipiku.com/214064/10488116.html)
冷土にて 第五話「均衡」 風が入らないはずの店内で、壁掛けのモビールがゆっくりと回っている。
午後の店番をしていた遼遠はカウンターに立ちながら、その吊り下がった飾りの不明瞭な振る舞いに目を奪われていた。薄い木の葉をかたどった板の数々が糸で吊るされ、吊り合ったシーソーのように絶妙なバランスで宙に浮かんでいる。それが店内の僅かな空気の流れを拾うのか、飾りの自重によるものなのかは分からないが、時折揺れているのだった。
店に用のある人間は、今はいない。外は薄暗く、朝から弱い雨が降り続いていた。
遼遠が眺めているモビールは、最近店に飾るようになったものだ。よく出来ているが売り物ではない。工房で出た端材を使って雪路が手作りしたものだった。
15074午後の店番をしていた遼遠はカウンターに立ちながら、その吊り下がった飾りの不明瞭な振る舞いに目を奪われていた。薄い木の葉をかたどった板の数々が糸で吊るされ、吊り合ったシーソーのように絶妙なバランスで宙に浮かんでいる。それが店内の僅かな空気の流れを拾うのか、飾りの自重によるものなのかは分からないが、時折揺れているのだった。
店に用のある人間は、今はいない。外は薄暗く、朝から弱い雨が降り続いていた。
遼遠が眺めているモビールは、最近店に飾るようになったものだ。よく出来ているが売り物ではない。工房で出た端材を使って雪路が手作りしたものだった。
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DONE一次創作。一人称俺と一人称俺が共依存になる話。第三話→(https://poipiku.com/214064/10350349.html)
第五話→(https://poipiku.com/214064/10450298.html)
冷土にて 第四話「アンカー」 降雪のピークと思われる時期が終わり、溶けていく雪の下からほんの少しだけ本来の道が顔を覗かせるようになった。冬はまだ続くが、これ以上冷えはしないだろうという期待が寒さを和らげる。
今日の午前の店番は雪路の担当だった。
元々賑わいのある店ではなく、多くは家具の修繕が目当ての客なので工房に繋いで終わりだ。今日もストーブの面倒を見ながら店内の掃除をし、カウンターで書類の整理をしつつ客を待った。あと三十分もすれば昼食である。
呑気に食事のことを考えていると、店の前のタイルを軽快に歩く足音が聞こえてきた。雪路はカウンターに広げた書類をまとめ、入り口へ視線をやる。
ドアの前で屈みこみ、ガラス越しに店内を覗き込んでいるのが恐らく足音の主だった。
8964今日の午前の店番は雪路の担当だった。
元々賑わいのある店ではなく、多くは家具の修繕が目当ての客なので工房に繋いで終わりだ。今日もストーブの面倒を見ながら店内の掃除をし、カウンターで書類の整理をしつつ客を待った。あと三十分もすれば昼食である。
呑気に食事のことを考えていると、店の前のタイルを軽快に歩く足音が聞こえてきた。雪路はカウンターに広げた書類をまとめ、入り口へ視線をやる。
ドアの前で屈みこみ、ガラス越しに店内を覗き込んでいるのが恐らく足音の主だった。
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DONE一次創作。一人称俺と一人称俺が共依存になる話。第二話→(https://poipiku.com/214064/10350228.html)
第四話→(https://poipiku.com/214064/10350376.html)
冷土にて 第三話「閃光」 絞り出した自分の声の情けなさに、雪路は顔を覆いたくなった。
「丸一日捜索に出てても平気な俺が何であれくらいで……」
雪路の変り果てた姿に、親方はひどく呆れていた。
「なんてザマだ。出掛ける許可を出すんじゃなかったよ。さっさと治すことだな、雪路」
遼遠と雪の中を歩いた翌朝、雪路は息苦しさで目覚めた。まだ日も上がり切らない早朝だった。
装備も準備もろくにせず雪を分け入ってきたせいで雪路は体が芯まで冷えてしまい、典型的な風邪症状に見舞われることとなってしまったのだ。熱と倦怠感、そして喉の奥に刺繍針が引っかかっているような痛みと湿った咳。体調の急変具合に、雪路はまだ夢を見ているんじゃないかと錯覚する。
三階の部屋からどうにか隣の工房まで壁伝いに歩いたが、この状態で働くのは到底無理な状態だった。
9982「丸一日捜索に出てても平気な俺が何であれくらいで……」
雪路の変り果てた姿に、親方はひどく呆れていた。
「なんてザマだ。出掛ける許可を出すんじゃなかったよ。さっさと治すことだな、雪路」
遼遠と雪の中を歩いた翌朝、雪路は息苦しさで目覚めた。まだ日も上がり切らない早朝だった。
装備も準備もろくにせず雪を分け入ってきたせいで雪路は体が芯まで冷えてしまい、典型的な風邪症状に見舞われることとなってしまったのだ。熱と倦怠感、そして喉の奥に刺繍針が引っかかっているような痛みと湿った咳。体調の急変具合に、雪路はまだ夢を見ているんじゃないかと錯覚する。
三階の部屋からどうにか隣の工房まで壁伝いに歩いたが、この状態で働くのは到底無理な状態だった。
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DONE一次創作。一人称俺と一人称俺が共依存になる話。第一話→(https://poipiku.com/214064/10350213.html)
第三話→(https://poipiku.com/214064/10350349.html)
冷土にて 第二話「ふたり」雪がくるぶしの高さまで積もり、庭の木に留まる野鳥が丸く膨れている、冬のある日だった。
時計が十三時を回ったのを見計らって、雪路は作業着に重ねて上着を羽織り、工房を出た。
工房に隣接した桔梗家具店の裏口に上がり、入ってすぐの壁に掛けてある手提げ袋とコートを回収して店側へ――レジ台の裏手へ行った。
店番をしていたこの店の跡継ぎ――アンリが、雪路に背を向けて窓の埃を拭っているのが見える。客はいないようだ。
雪路は声をかけた。
「アンリ、昼は」
手を止め、ゆったりとした動作で雪路の方を向くと、アンリは表情を緩めた。
「ああ、お疲れ。行くよ」
アンリはエプロンのポケットから鍵を出して、慣れた手つきで店の戸締りをする。「お昼休憩中」の札を外から見えるように提げた。店はこれから少し遅い昼休みだ。
9996時計が十三時を回ったのを見計らって、雪路は作業着に重ねて上着を羽織り、工房を出た。
工房に隣接した桔梗家具店の裏口に上がり、入ってすぐの壁に掛けてある手提げ袋とコートを回収して店側へ――レジ台の裏手へ行った。
店番をしていたこの店の跡継ぎ――アンリが、雪路に背を向けて窓の埃を拭っているのが見える。客はいないようだ。
雪路は声をかけた。
「アンリ、昼は」
手を止め、ゆったりとした動作で雪路の方を向くと、アンリは表情を緩めた。
「ああ、お疲れ。行くよ」
アンリはエプロンのポケットから鍵を出して、慣れた手つきで店の戸締りをする。「お昼休憩中」の札を外から見えるように提げた。店はこれから少し遅い昼休みだ。
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DONE一次創作。一人称俺と一人称俺が共依存になる話。第二話→(https://poipiku.com/214064/10350228.html)
冷土にて 第一話「白百合」【introduction】
謎の青い霧の拡がりによって、生活できる土地を大きく狭めることとなった世界。幼い頃に霧の中で親と生き別れた雪路は、再会を願って足掻き続けるも未だ叶うことはなかった。故郷の家具工房に迎えられ、平穏ながらも漫然とした日々を過ごす雪路。五度目の冬は、微かな変化の兆しを連れて訪れた――。
第一話「白百合」
ふと窓の外を見ると、庭の雑草の一枚一枚の葉に霜が降り、淡く光っていた。
冬の始まりを感じさせる朝だった。
雪路が寝泊まりしているのは三階の、手洗い場がついているだけの小さな部屋だ。入り口に「桔梗家具店」と綴られた木造建てのこの建物は、一階から二階は家具や調度品の販売フロアになっていて、最上階であるここは従業員の寝室と物置き部屋が並んでいる。この階で暮らしているのは、今のところ雪路しかいない。店の隣に工房を兼ねた平屋があり、そこに"親方"とその跡継ぎが暮らしている。
12755謎の青い霧の拡がりによって、生活できる土地を大きく狭めることとなった世界。幼い頃に霧の中で親と生き別れた雪路は、再会を願って足掻き続けるも未だ叶うことはなかった。故郷の家具工房に迎えられ、平穏ながらも漫然とした日々を過ごす雪路。五度目の冬は、微かな変化の兆しを連れて訪れた――。
第一話「白百合」
ふと窓の外を見ると、庭の雑草の一枚一枚の葉に霜が降り、淡く光っていた。
冬の始まりを感じさせる朝だった。
雪路が寝泊まりしているのは三階の、手洗い場がついているだけの小さな部屋だ。入り口に「桔梗家具店」と綴られた木造建てのこの建物は、一階から二階は家具や調度品の販売フロアになっていて、最上階であるここは従業員の寝室と物置き部屋が並んでいる。この階で暮らしているのは、今のところ雪路しかいない。店の隣に工房を兼ねた平屋があり、そこに"親方"とその跡継ぎが暮らしている。