yasumisan_
DONE高麗の遣使 一:来着 遡る事、四十三年前――
馬に跨った主人と、曳き手を握る従者が、薄暗い獣道を足早に過ぎていく。
青黒い空は残星を抱き、東から漏れる薄明かりが、道端の躑躅を微かに彩る。
「蠏足、今はどのあたりだ?」
「山背と倭の境でさあ。 この平坂を下りゃあ、二刻半(註:約五時間)で宮都に着くやろお」
白い息を切らしながら、従者が答える。
「であれば昼前か。 急ぐぞ、蠏足。 早く大臣に報せねばならぬ」
「へえ!」
そう言うと、二人は風を切る様に坂道を駆け下り、残夜の闇に消えていった。
その日の朝方。
初瀬(註:奈良県桜井市東部)の野山で、志帰嶋大王(註:欽明天皇)は近臣達と鷹狩に興じていた。
3382馬に跨った主人と、曳き手を握る従者が、薄暗い獣道を足早に過ぎていく。
青黒い空は残星を抱き、東から漏れる薄明かりが、道端の躑躅を微かに彩る。
「蠏足、今はどのあたりだ?」
「山背と倭の境でさあ。 この平坂を下りゃあ、二刻半(註:約五時間)で宮都に着くやろお」
白い息を切らしながら、従者が答える。
「であれば昼前か。 急ぐぞ、蠏足。 早く大臣に報せねばならぬ」
「へえ!」
そう言うと、二人は風を切る様に坂道を駆け下り、残夜の闇に消えていった。
その日の朝方。
初瀬(註:奈良県桜井市東部)の野山で、志帰嶋大王(註:欽明天皇)は近臣達と鷹狩に興じていた。
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DONE推古天皇の治世のとある春。山背国相楽で、初めての仏塔が建立された。
願主はかつて、蘇我馬子のもとで通事を務めた子麻呂という老人。
彼は、先立たれた義理の弟を偲びながら此処に寺をつくった。
義弟の名は、東漢坂上直駒。
彼はかつて、子麻呂が初めて通事を務めた、未知の国から来た使者の大使であった.......
高麗の遣使 プロローグ:立柱 梅の花が散る丘の上に、村人達が集まっていた。彼らの視線の先は、綱で結ばれた方形の柱である。
「ソオレ! ソオレ!」
白衣の男たちが、太鼓の音に合わせて声を張り、一斉に綱を引くと、柱はゆっくりと礎石の上で起き上がっていく。やがて、ズシリと重い音とともに、柱は晴天を衝かんとばかりに真っ直ぐそびえ立った。
それを見守っていた村人は、わあっと歓声をあげ、皆一同に拍手を送った。
この日、相楽(註:京都府木津川市)の地で初めて、仏塔が建てられたのである。
簡素ではあるものの、美しく、力強い塔であった。
時は推古天皇の御世。天皇の詔により、臣下の者達は自らの氏族の威信にかけ、競って寺を建てだした。
2142「ソオレ! ソオレ!」
白衣の男たちが、太鼓の音に合わせて声を張り、一斉に綱を引くと、柱はゆっくりと礎石の上で起き上がっていく。やがて、ズシリと重い音とともに、柱は晴天を衝かんとばかりに真っ直ぐそびえ立った。
それを見守っていた村人は、わあっと歓声をあげ、皆一同に拍手を送った。
この日、相楽(註:京都府木津川市)の地で初めて、仏塔が建てられたのである。
簡素ではあるものの、美しく、力強い塔であった。
時は推古天皇の御世。天皇の詔により、臣下の者達は自らの氏族の威信にかけ、競って寺を建てだした。