孤独を消すから　目が覚めた時には、唯、独りだけの闇の中に。
直ぐ傍ソバにも、遠い場所にも、辺りを見回そうが誰も彼も存在しなかった。
記憶は無く、自分が何者なのかすらも分かり得ない事実に、猛烈な不安が唯ひたすらに彼を襲う。
云い知れぬ不安と苛立ちに塗れた次いでに爪の先で力強く腕を鷲掴むと、鮮紅の温かみがぷつりと破れた皮膚から現れた。
小さく丸く膨らんだそれを指先で擦るように拭うと、指紋の間に染み込むように広がって行った。
その様と、色と、そして微かに香る鉄のニオイにうっとりと瞼を閉じる。
（駄目だ、駄目だ。この行為は癖になるな。）
何者でもなく、破壊だけを知り続ける哀れな姿は、瞬く間に一時の欲に溺れていった。
彼は只管に己の身体へ爪を立て続け、時には口を開け強過ぎる力で噛み付いていく。