tokinoura488
DONETwitterに「#ハイラル城備忘録・幻史」のタグでアップしたモブ視点リンゼルSS登場モブ:造園技師 短髪白髪交じりの元気なご老体
タイトル:孤独の終焉
#ハイラル城備忘録・青史【造園技師の記録1・枝を乱す者】の続きのお話
ハイラル城備忘録・幻史【造園技師の記録2】
2 孤独の終焉
刈り込んだ枝葉に、朝露が美しく光っている。儂の手のひらでは今日にでも咲くだろう蕾が、まだ眠そうにしている。この花はゼルダ姫様のお気に入りの花だ。淡いベージュの地味な花だが、とても香りが良い。東の空は次第に明るくなり、薄雲の中から太陽が生まれた。
「今日も綺麗だ」
儂は満足して次の作業へと移る。井戸に水を汲みに行き、水でいっぱいになった木桶を上げる。滑車の音を聞きながら、先日のことを思い出していた。
今は亡き王妃とゼルダ姫様にだけの【隠れ園】に辿り着いた青年。姫付きの騎士となったリンクは、どうやらあれから何度もあの隠し通路を使っているようだ。外から見てもただ庭木が林立しているようにしか見えないが、人ひとりだけ通れるようになっている。彼奴の性格からして、強引な突破はおそらく一度きりのはず。ただ確証はない。ゼルダ姫様が嫌だと言えば、きっとあの騎士は道順を知ったとしても、決して立ち入ることはないだろう。
28952 孤独の終焉
刈り込んだ枝葉に、朝露が美しく光っている。儂の手のひらでは今日にでも咲くだろう蕾が、まだ眠そうにしている。この花はゼルダ姫様のお気に入りの花だ。淡いベージュの地味な花だが、とても香りが良い。東の空は次第に明るくなり、薄雲の中から太陽が生まれた。
「今日も綺麗だ」
儂は満足して次の作業へと移る。井戸に水を汲みに行き、水でいっぱいになった木桶を上げる。滑車の音を聞きながら、先日のことを思い出していた。
今は亡き王妃とゼルダ姫様にだけの【隠れ園】に辿り着いた青年。姫付きの騎士となったリンクは、どうやらあれから何度もあの隠し通路を使っているようだ。外から見てもただ庭木が林立しているようにしか見えないが、人ひとりだけ通れるようになっている。彼奴の性格からして、強引な突破はおそらく一度きりのはず。ただ確証はない。ゼルダ姫様が嫌だと言えば、きっとあの騎士は道順を知ったとしても、決して立ち入ることはないだろう。
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DONETwitterに「#ハイラル城備忘録・幻史」のタグでアップしたモブ視点リンゼルSS登場モブ:アデヤ村の娘・15才代・女性
タイトル:それは森の色
ハイラル城備忘録*幻史【アデヤ村村娘の記録1】
1 それは森の色
アデヤ村は今日も眠たくなるくらい平穏だ。窪んだ大地に湧き出る泉の中に点在する家々。丘の上には影ですっぽり村が隠れてしまうのではないかと思うほどの巨木が立っている。私は主の樹と勝手に呼んでいる。泉に立ち並ぶ家と家とを繋いでいる渡橋の木板を踏めば、振動に驚いて小魚が水面に勢いよく跳ねた。水しぶきが太陽の光にキラキラ光って、美しい波紋が広がっていく。
私は今年で十五になる。もう少しで独り立ちしてもいい年になるけれど、自分が将来どうするのか未だ決めきれないでいる。一つしか年の変わらないゼルダ姫様は、厄災を封じるために修行の日々だと聞いた。
40981 それは森の色
アデヤ村は今日も眠たくなるくらい平穏だ。窪んだ大地に湧き出る泉の中に点在する家々。丘の上には影ですっぽり村が隠れてしまうのではないかと思うほどの巨木が立っている。私は主の樹と勝手に呼んでいる。泉に立ち並ぶ家と家とを繋いでいる渡橋の木板を踏めば、振動に驚いて小魚が水面に勢いよく跳ねた。水しぶきが太陽の光にキラキラ光って、美しい波紋が広がっていく。
私は今年で十五になる。もう少しで独り立ちしてもいい年になるけれど、自分が将来どうするのか未だ決めきれないでいる。一つしか年の変わらないゼルダ姫様は、厄災を封じるために修行の日々だと聞いた。
tokinoura488
DONETwitterに「#ハイラル城備忘録・幻史」のタグでアップしたモブ視点リンゼルSS登場モブ:医務官・60才代・男性
タイトル:傍にいるべき者
ハイラル城備忘録*幻史【医務官の記録】
1:傍にいるべき者
ハイラル城常駐の医務官である私の元に、ゼルダ姫が運び込まれたのは月が頭上高く昇った頃だった。ひどく静かな夜で、遠方に出向いた英傑一行が戻ると聞いていたより、ずっと早い到着に思えた。
「こちらへ。事情を説明して頂けますかな?」
ぐったりとしたゼルダ姫の御身をその胸に抱きかかえ、開け放ったドアの前で肩を上下させていたのは青い顔をしたリンク殿だった。彼の話で何かを飲んだらしいことは分かった。古い文献を探す為、出向いた先での出来事という。その場所の名に悪い予感が頭をよぎった。私は手早くゼルダ姫の状態を確認した。
上気した頬。その割に発熱に至らぬ体温。乱れた息と顔色だけなら通常の感冒と症状は似ているが、やはり何か違う。
23011:傍にいるべき者
ハイラル城常駐の医務官である私の元に、ゼルダ姫が運び込まれたのは月が頭上高く昇った頃だった。ひどく静かな夜で、遠方に出向いた英傑一行が戻ると聞いていたより、ずっと早い到着に思えた。
「こちらへ。事情を説明して頂けますかな?」
ぐったりとしたゼルダ姫の御身をその胸に抱きかかえ、開け放ったドアの前で肩を上下させていたのは青い顔をしたリンク殿だった。彼の話で何かを飲んだらしいことは分かった。古い文献を探す為、出向いた先での出来事という。その場所の名に悪い予感が頭をよぎった。私は手早くゼルダ姫の状態を確認した。
上気した頬。その割に発熱に至らぬ体温。乱れた息と顔色だけなら通常の感冒と症状は似ているが、やはり何か違う。
tokinoura488
DONETwitterに「#ハイラル城備忘録・幻史」のタグでアップしたモブ視点リンゼルSS登場モブ:図書館司書・35才・妻子あり
タイトル:掃除の極意
ハイラル城備忘録*幻史【図書館司書の記録】
1:掃除の極意
図書館司書の一日は掃除から始まる。片手に大きめの刷毛を持ち、中央階段を奥へと上がっていく。刷毛はシツゲンスイギュウの毛が一番適している。毛質は硬いがしなやかで埃を絡め取るが、表紙の細やかな装丁を傷つけないからだ。
ハイラル城の書物のほとんどは覧できるように整えられている。大きなホールを中心に、背の高い本棚が並び、左右に設けられた中二階は廊下と書棚を兼ねる。ホールには書物を読んだり、書き物ができるよう机が設えられ、学者や術士が学びにやってくる。時々僕のちいさな息子も妻に連れられて絵本を借りていく。だからこそ居心地の良い場所にせねばという気持ちが強くなるのだろう。
29381:掃除の極意
図書館司書の一日は掃除から始まる。片手に大きめの刷毛を持ち、中央階段を奥へと上がっていく。刷毛はシツゲンスイギュウの毛が一番適している。毛質は硬いがしなやかで埃を絡め取るが、表紙の細やかな装丁を傷つけないからだ。
ハイラル城の書物のほとんどは覧できるように整えられている。大きなホールを中心に、背の高い本棚が並び、左右に設けられた中二階は廊下と書棚を兼ねる。ホールには書物を読んだり、書き物ができるよう机が設えられ、学者や術士が学びにやってくる。時々僕のちいさな息子も妻に連れられて絵本を借りていく。だからこそ居心地の良い場所にせねばという気持ちが強くなるのだろう。