あの後飲みに行った 落ち着いたジャズの流れる、こぢんまりしたバーのカウンター席。客もほとんどいない。いわゆる隠れ家的な店だ。バニーは俺の隣に座って店内をそれとなく見渡すと、呟くように言った。
「なんか驚きました。虎徹さん、こういうところでもお酒飲むんですね」
それを聞いて、俺はバニーに過去酔っ払った勢いで送り付けた、飲み会の様子の写真の数々を思い出す。確かにあれは全部チェーン店の居酒屋だった気がする。ああいうところは大人数で騒いでも問題ないからだ。
それに――。
「だって、お前って居酒屋でジョッキからビール飲むタイプに見えねぇもん」
それに、ワイルドな俺と対照的でスマートさを全面的に売りに出しているバニーのことだ。そんなことをしていたら、どっかのゴシップ誌にすっぱ抜かれるだろう。それはそれで女性ファンに……なんていうんだっけ。ギャップ萌え? そういうのでウケるかもしれないが、こいつが望んではいないはずだ。
色々言いたいことはあったが、「俺だって考えたんだぞ」とだけ言って口をとがらせる。
「あ、マスター。ハイボールふたつね」
「ちょっと、人に聞かないで注文を決めないでくださいよ」
バニーが眉を吊り上げたので、俺は聞かなかったふりをする。
「ハイボールならお前の気にしてるカロリーやら糖質やらが少ない方だぞー」
「! だからってそういうおじさんみたいなお酒……っ」
うつむいたバニーはマホガニー色したカウンターの上でこぶしを微かに震わせている。
「お前だって今年でアラサーだろ。もう立派なおじさんの仲間入りよ?」
「うっ……それはそうなんですけど」
そこで注文したハイボールが出てきたから、俺は自分のグラスを持ち上げた。バニーも諦めたのかグラスを手に取り、お互いに視線を合わせる。
「何に乾杯します?」
そこで俺は小さく笑った。決まってるだろ、そんなの。
「タイガー&バーナビー、今後ともよろしく!」