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    ce_ss111

    せら ( @ce_ss111 )
    フィ / オズフィガ / 晶♂フィ

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    『氷華、祈りて捧ぐ』
    世界征服時代オズフィガ
    *2021.9.21発行『泡沫、徒花、みちとせ』、2022.7.24発行『散花の調べ』と同じ時間軸、一部再録あり
    *フィガロの口調が公式情報(spoon.2Di vol.80)と異なります。前述の作品内容との整合性から修正をしていません、ご容赦下さい
    *メインスト2部・4周年ストの内容を一部含みます
    *メリクリじゃないいつものでごめんなさい…

    #オズフィガ
    osFiga

    氷華、祈りて捧ぐ 白の空気は寥々として澄み渡り、ちぎれた雲からはらはらと落ちるように雪花が舞う。風に煽られた羽織りがひらりと翻った拍子に、ひとつにまとめられた冬の海の色を映した癖毛がふわりと揺れる。紗をかけたように白く塞がれた空に映えるその色は、毛先が淡く透けて空の色を映している。
     空は雪音を吸い込むような白に染まり、薄っすらとその白に淡紫色の朝の光を滲ませて、吐息を集めるように風が雪を踊らせていた。微睡を残したままの空の端には、きらり、夜の名残の煌めきがその光を湛えていた。
    「……意味なんてなくても、いつか終わるその日まで、」
     バルコニーの手摺りに凭れ掛かり空を見上げていたフィガロは、そっと手を伸ばし、広げた手のひらに落ちる星屑のような雪の欠片を見つめていた。防寒魔法の掛けられた白くあたたかい手のひらの上で、雪の結晶がはらりと咲いて、咲いて、じわり、溶けていく。
    「……あぁ、待って、溶けないで、」
     雪の華を追いかけて、ふといたずらに魔法を解いてみれば瞬く間に冷たい空気が肺を凍らせ、剥き出しの指先を赤く染め上げていく。急激に体温が奪われ、手足の震えが止まらなくなる。広げた震える手のひらにはらはらと、冷たい雪が舞い落ちる。フィガロがその手に咲いた雪の華を見つめ、ほっとしたように小さく息を吐くと、おもむろに腕を掴まれ弾かれたように後ろを振り返った。
    「何をしている」
    「……オズ」
     にわかに強さを増した風雪が、オズの下ろしたままの長い髪をぶわりと捲き上げる。フィガロは取り繕うことも忘れていた表情をオズから隠すように俯くと、こっそりと自身に魔法を掛け直し、腕を掴む手に微かに震える指先でそっと触れながら、ふ、と小さく吐息をこぼした。
    「……なんでもないよ。ただ、空を見ていただけ」
     風に靡く後れ毛を耳に掛けながらそう呟いて顔を上げたフィガロは、いつもと変わらぬ表情で榛色の瞳を細めながらオズに笑いかける。さらりと纏った絹の薄衣が、風に煽らればたばたとはためき、裾に付いた銀細工の飾りが、微かに、風の向こうで鈴の音のような心地良い音を奏でた。
    「フィガロ。なぜ、」
    「今日はずいぶんはやいね、オズ」
    「……、」
    「よく眠れなかった?」
     フィガロは普段と変わらぬ声音でオズの言葉を遮り、笑みを浮かべながら、ふわり、首を傾げる。その緩慢な動きに合わせ、細い肩を耳横で纏められた青灰色の髪が滑り、つられるようにオズの赤い瞳がそれを追いかけた。
    「それとも、起きたら俺が隣にいなくて恋しくなった?」
    「……」
     何も言えないまま口を閉ざしてしまったオズの横で、フィガロはくすくすと笑いを堪えながら背を向ける。んぅ、と声を漏らしながら両手を広げると、そのままみずみずしい空気を肺いっぱいに取り込むように大きく伸びをする。
     徐々に明るさを増し、むせ返るように白んできた遠くの山の稜線が、確かな夜明けを連れてくる。依然、北の国を覆う風雪が止む気配は感じられない。ただ、そこに広がる朝の訪れは、吹雪の最中でも等しく、白く、世界を照らす。
    「ほら、夜が明けるよ、オズ」
    「……ああ」
     立ち止まることも、振り返ることもせずに、向かう場所も求めるものもわからないままに。背を合わせたまま、見ているものも見えているものも違う二人が、たったふたりで孤独を分け合って。
     世界を壊し、世界を変える旅。そこにあるのは、愛でも恋でもない、ただ、言葉にできない絆の真似事のようなもの。


    「……、」
    「……そんなに見つめて、どうしたの?」
     口元に曲げた細い指を当てくすくすと笑うフィガロをぼんやりと見つめたまま、オズはそっとフィガロの頬に手を添える。控えめに触れてくるあたたかな手に、ふふ、くすぐったいよ、と瞳を細めるフィガロの耳元で、オズは常より幾分穏やかな声色で呪文を唱えた。
    「《ヴォクスノク》」
     咄嗟に身構え身体を強張らせたフィガロを襲ったのは、やわらかに肩を包み込む布の感触。驚いた表情のまま自身の肩に掛かる布を抱きしめ、フィガロは何も言わずに隣に佇むオズを見上げる。
    「……ストール? どうして?」
    「そのような格好では風邪をひく」
    「……俺、魔法使いだよ?」
    「おまえも昔、よく私にそうしていただろう」
     オズの言う昔というのは、遥か昔、オズが双子の屋敷に連れてこられてすぐの頃の事。スノウとホワイトの元、フィガロが甲斐甲斐しくオズの面倒をみて、言葉や、魔法や、心の在り方を紡いで伝えた、幽けき日々の記憶。
     双子の修行の合間を縫って、こっそり双子の目を盗んで、フィガロは幼いオズを自分の箒に乗せてふたり、何度か北の国を旅したことがある。空を見上げ、雪を掻き分け、海を見渡し、花を探して、星を数え、風を追いかけた。
     美しいものや、楽しいものや、悲しいものや、痛みに触れて、心で感じて、言葉にできるように。強大な魔力を放出するだけでなく、繊細に魔力を制御したり、思う通りに操ったりできるように。心で魔法を使う、魔法使いの生き方そのものを心を寄せて伝えた日々に、フィガロはそっと目を閉じ想いを馳せる。


    ***
     遠く丘の向こうに広がる碧い海に向け、フィガロは一層、箒の速度を上げる。鼻歌まじりに青空の下を泳ぎ、段々と高度を下げ、目の前に広がる大海を真っ直ぐ見つめたまま物も言わぬオズの耳元で、フィガロはそっと囁く。
    「ほら見て? 着いたよ、オズ」
    「……、」
     絶え間なく歌う潮騒が、二人を包み込む。波の音以外何も聞こえないその場所には、ただ、悠久を思わせる果てしない蒼が広がっていた。蒼の海は大きくうねり、その水面に波の花を白く煌めかせている。
    「きれいだろう? 空の色を映したように鮮やかな蒼だけれど、光を映せばもっと淡く碧く輝くし、水底はもっと深い青が広がっているよ」
    「……あお」
    「そう。これが『あお』だよ。海の色だ」
    「『あお』は、海の色」
    「ああ、綺麗だろう?」
    「……」
     オズの赤い瞳が、見渡す限りの青を飲み込んでいく。果てしなく続くその色に魅入られたように、オズは息をするのも忘れ、澄み渡った美しい海に心を奪われていた。
    「ふふ、どう? 気に入った?」
     俺は結構、ここからの景色が好きなんだ、そう言って頬を緩めるフィガロを見上げ、オズはこくりと小さく頷く。紅玉のような瞳が、フィガロの星色の瞳を見つめる。はらり、逆光の光の中で揺れるフィガロの青の後毛に、光が溶けて淡くゆらめき、色素の薄い瞳が光を映し穏やかに輝いた。
     フィガロは思い出したような表情を見せた後、そういえばずっと前から思ってたんだけどさ、と前置きをして、オズの顔を覗き込む。
    「……おまえの瞳の色。きれいだよね」
    「ひとみ?」
    「おまえには、赤がよく似合うよ」
     そう言って、フィガロはそっとオズの頭を撫でる。不思議そうな顔をして瞬きを繰り返すオズの様子に、フィガロはくすくすと笑い声を上げて、そのまま、オズと目線を合わせるようにしゃがみ込んだ。
    「赤は、すべての始まりの色だ。燃え上がる炎のように、己の力を奮い立たせる、目覚めの色とも言われている。……おまえによく似合ってるよ、オズ」
    「……そうか」
    「俺は、好きだよ」
     吹き抜ける風に揺れるフィガロの海の色を映した髪が、淡く、空に溶ける。顔に掛かる髪を耳に掛け、眉を下げ頼りなく微笑んだまま視線を海に戻したフィガロの横顔を、オズは眩しいものを見つめるように見上げていた。
    ***


    「ふ……ふふ、あはは」
    「何故笑う」
    「だって、そんな怖い顔して呪文を唱えた癖に、ストール引っ張り出して、風邪をひくっておまえ、」
     ふふ、世界を征服しようって魔法使いのすることか? と笑いを堪えるフィガロの様子に、オズの表情がだんだんと曇っていく。ぶわ、と強い風が通り抜けフィガロのストールが風に煽られひらり、ひらりとはためいた。
    「不要ならば、返せ」
    「ごめんごめん。いるよ、全然いる、貸して? ふふ、あったかくて、おまえの瞳みたいな色、俺は、嫌いじゃないよ」
     そう言って眉を下げふにゃりと笑みをこぼすと、フィガロは困ったような、切ないような言い知れぬその表情を隠すように、オズの胸にそっと顔を埋める。オズからはその表情は窺い知れない。
     真白な世界の只中で、互いの心音に耳を澄ませ、まるで溶け合うように抱き合って。そこにあるのは、恋でも愛でもない、絆の真似事のような、儚い想い。
    「そろそろ部屋に入ろっか、オズ」
    「……ああ」
    「ねぇオズ、次はどこへ行く? 西に堕ちた魔法使いを追うのもいいし、東の職人の街へ赴くのもいいな」
    「……好きにしろ」
    「あったかいところに行くのもいいね。あと、美味い酒と肴があるところがいいな」
     抱き合ったまま、互いに視線を交わすことなく、他愛のない会話をして、肩を揺らす。下手くそな笑みを浮かべながらふたり、互いの孤独を埋めるように、不確かな何かを確かめるようにそっと手を取り合って。
     立ち止まってしまえば、終わりが来てしまうことは互いにわかっていた。泡沫の時を共に、孤独なもの同士が肩を寄せ合って、孤独と虚しさの終わりを探して。暗闇の中でただひたすらに光を探すように顔を上げたフィガロは、銀花舞う黎明の光の中で、儚く笑い、──空を、見上げた。




    「オズ、見て? この花、アガパンサスっていうんだよ」
     いつものように朝食を取りながら地図を広げ行程の確認をした後、五日間滞在した宿に別れを告げるとふたり、肩を並べて雪原を東へと進む。フィガロは先を行くオズに声を掛け立ち止まると、指を鳴らし小さく呪文を唱える。あたたかな光を帯びて溶け始めた雪は、しゅうしゅうと微かな白い湯気を燻らせる。花びらに雪を飾った薄紫色のその花に、フィガロは、ふう、と吐息を吹きかけた。
     ──それはまるで祈りのような、ささやかな願いの魔法。
    「このような北の果たてに咲く、花……?」
    「ああ、きれいだろう?」
    「……雪に埋もれてもなお、この花はこれほど見事に咲くものなのか?」
     オズは見惚れるように、雪を掻き分け花を咲かせる薄紫色のアガパンサスの花へ、そっと手を伸ばす。花茎を立ち上げて競うように咲き誇る花の姿は、まるで夜空を彩る花火のようで、儚く、美しく、泡沫の夢のように揺れている。
     花の香に誘われるように土地の精霊がざわめきはじめ、ふわり、ふわりと薄い靄のような光が集まってくる。その様子に眉を下げ愛おしそうに微笑みながら、フィガロはゆっくりと口を開いた。
    「……ずいぶん昔にね、俺が南の僻地から持ち込んだんだ。北にはなかなか根付かない花なんだよね」
     フィガロが目線の高さに差し出した人差し指にふわり、頬を寄せるように密やかに、薄紫色の靄のような精霊が舞い降りる。ちかちかと瞬くように明滅すると、靄が淡い光を煌めかせながら蝶の姿を象った。
    「……だから、当時住んでいた屋敷のコンサバトリーで大事に育ててさ、やっとの思いで花を咲かせたんだ」
    「それはいつ頃の話だ?」
    「どうだろうな、五百年か、六百年か……もっと昔だったかもしれない。やっと花が咲いた時は嬉しかったな」
    「……そうか」
     人差し指に止まった蝶の姿の精霊は、いつの間にか美しい蒼い鳥に姿を変えていた。嘴で花を啄むようにフィガロの指を突く精霊を、こーら、と咎めながら、フィガロはそっと目を閉じ、記憶の幽香を辿っていく。
    「──花が咲いたその日に、あの土地に精霊の王が誕生したんだ。あの日は珍しく屋敷のそばで細氷まで見られてさ。ずいぶん昔のことなのに、今でも鮮明に覚えているよ」
    「その花が、どうして此処に?」
    「気分が良かったから、麓の集落や、気に入りの場所に守護の魔法と一緒に花を贈ったんだ。それが数百年の時を超えて、こんな場所で自生するなんてね?」
     ふわり、精霊を誘うようなやわらかな風が通り抜け、羽を広げた精霊が空へと飛び立つ。榛色の瞳を細めその姿を追っていたフィガロは、オズから向けられた視線に気づいて、なぁに? と首を傾げ、瞳を和らげた。
    「……おまえは本当にそうやって、人や、草木や、花や、国が、芽吹いて、咲いて、散って、枯れていく様を見守ることが、昔から好きなのだな」
    「……どうしてそんなこと。情緒も芽生えていないおまえにわかるんだ?」
     珍しく饒舌なオズの瞳を見つめ、フィガロはそう投げかける。自分を見つめる赤の双眸がゆっくりと瞬いて、氷原の中で一際鮮やかな彩りを放つ。
    「……以前、双子がそう言っていた」
    「なんだ、スノウ様とホワイト様の受け売りか」
     呆れたように眉を下げてくつくつと笑い声をこぼしたフィガロは、オズに背を向け風にそよぐ自身の髪に指を絡める。胸元ほどまで伸びた髪は、深緑色のビロードのリボンで耳横に結ばれ、風にふわり、揺れている。
    「……だが、私が村や街や人間や魔法使いを滅ぼす姿を、興味なく手出しをせずに見つめているようで、その瞳にしかと焼き付けているのを知っている」
    「……、」


     『ぐあああ……ッ!』
     『きゃあああ……っ!』
     『お……、お許しを……っ! どうか、命だけは……!』
     『そのくらいにしておけ。この地の種を根絶やしにしてしまう』
     『…………』
     『何故だ!? 何が目的だ!?』
     『オズよ……! 何故このようなことをはじめた!? 一体、何が気に入らぬと……』
     『すべてだ。すべて、目障りだ』
     『《ヴォクスノク》』
     『ぎゃああああ……ッ!』
     『…………。……あーあ……』


    「おまえの、そういうところは好ましいと思っている」
    「……は?」
     突然の声にフィガロが振り返ると、オズはそれに構う事なくフィガロの風に揺れる髪にそっと手を絡める。不敵に目元を和らげると、そのまま青灰の髪へそっと口付けを落とす。暫しの間、呆けたように動きを止めていたフィガロは、仄かに赤くなった顔を悟られないように俯くと、絞り出すような声音で小さく抗議の声を上げた。
    「……おまえごときに調子を狂わされるの、いい気がしないな」
    「悪い気がしない、の間違いだろう?」
    「……おまえ、どこで覚えてくるの、そういうの」
    「おまえしかいないだろう、フィガロ」
     夜空を映したように煌めく宵闇色の髪に手を伸ばし、フィガロは自分がされたのと同じように触れるだけの口付けを落とす。掬い取った宵闇の髪は吹き抜ける風に攫われて、指の隙間を溢れる水のようにはらはらとこぼれて揺れて、風を纏って自由に空を泳ぐ。
    「……俺もおまえのそういうところ、嫌いじゃないよ」
     ふにゃりと眉を下げ泣き笑いのように顔を歪めて、フィガロはそっとオズの手を取ると、ふたり、額を寄せ合いへたくそな笑みを零し合った。

     孤独や虚しさを抱え、終わりを求めて始めた旅の途中で、心を傾け、心を預け、心を休めたささやかな日々。息をするように村を焼き、人を葬り、石を砕き、それでも、道端に咲く花を摘み、盃を交わし、星を数えて、空を見上げ、笑い合う。
     破壊と殺戮の日々の間に間に、ひとときの花笑みを添えるように、そっと心を繋いで、心を紡いで。
    「……ねぇオズ、俺をちゃんと連れてってよね」
     ──最後まで。その、先まで。

     世界を壊し、世界を変える旅。そこにあるのは、愛でも恋でもない、ただ、言葉にできない絆の真似事のようなもの。







    -------------------------------------------------------------------------
    あとがき

    ここまでお読みくださりありがとうございます。
    世界征服時代のふたりに夢を見すぎて、2年以上前に出した自分の本を一生擦って生きています。既刊を読んでくださっている方にはま〜た擦ってるなと思ってもらえたら嬉しいですし、初めて読んでくださった方にはあたたかい目で見てもらえたら嬉しいです。おたくは世界征服時代と赤いストールが大好き。あとせっかくなので新刊に出てくるお花のお話も擦っておきました。自分の本を擦りすぎ。
    1年5ヶ月ぶりにオズフィガをまた執筆するきっかけをくださりありがとうございます。素敵な企画に参加させていただけてとても光栄でした!メリークリスマス!

    せら
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    ce_ss111

    DONE『氷華、祈りて捧ぐ』
    世界征服時代オズフィガ
    *2021.9.21発行『泡沫、徒花、みちとせ』、2022.7.24発行『散花の調べ』と同じ時間軸、一部再録あり
    *フィガロの口調が公式情報(spoon.2Di vol.80)と異なります。前述の作品内容との整合性から修正をしていません、ご容赦下さい
    *メインスト2部・4周年ストの内容を一部含みます
    *メリクリじゃないいつものでごめんなさい…
    氷華、祈りて捧ぐ 白の空気は寥々として澄み渡り、ちぎれた雲からはらはらと落ちるように雪花が舞う。風に煽られた羽織りがひらりと翻った拍子に、ひとつにまとめられた冬の海の色を映した癖毛がふわりと揺れる。紗をかけたように白く塞がれた空に映えるその色は、毛先が淡く透けて空の色を映している。
     空は雪音を吸い込むような白に染まり、薄っすらとその白に淡紫色の朝の光を滲ませて、吐息を集めるように風が雪を踊らせていた。微睡を残したままの空の端には、きらり、夜の名残の煌めきがその光を湛えていた。
    「……意味なんてなくても、いつか終わるその日まで、」
     バルコニーの手摺りに凭れ掛かり空を見上げていたフィガロは、そっと手を伸ばし、広げた手のひらに落ちる星屑のような雪の欠片を見つめていた。防寒魔法の掛けられた白くあたたかい手のひらの上で、雪の結晶がはらりと咲いて、咲いて、じわり、溶けていく。
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    ce_ss111

    DONEフィガロと精霊と北の国のおはなし
    フィガロ中心  小説


    *双子の屋敷を出たあと世界征服時代よりずっと昔
    *北に居を構えたフィガロのなんでもない朝のひとときをほんの少しだけ覗いてみました
    *CPなしで名前のあるキャラの登場があります


    *フィガロが森を散策したり、箒で空を飛んだり、森や泉を訪れるなんでもない日常のひとときを覗いてみました





     北の国の雪深い森に、目覚めの光が密やかに語りかける。宵闇の空の縁が仄かに白く色付く時、ゆっくりと光をその身に馴染ませるように、夜明けが闇を溶かし始めた。森の木々は真白な衣を纏い、時折吹き荒ぶ冷たい風に、その身をゆらゆらと燻らせている。
     屋根を滑る雪の音色が、静かな朝に歌うように響き渡る。まもなく聞こえたどさりという雪の落下音に、んぅ、と掠れた声を漏らしながら、フィガロはふんわりと膨らんだ羽根布団の中で身を捩った。
    「……、」
     この氷風吹き渡る季節には、この地を燦々と照らすあたたかな太陽が登るわけではない。厚く重たい雲が覆う空の向こう側に、音もなく静かで冷たく濡れた朝がゆっくりと登ってくる。じっくりと白んでいく空は、やがて、世界を乳白色に染め上げていく。
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